アジアのなかの日本:
日本の農業集落と経済発展
(清文堂)
■この本の内容
近世村請制の延長に似た徴税制度や農会をめぐる第一部、役員が有限責任・有給・営利を追求することの多かった沖縄・樺太・南洋諸島・台湾との比較を通じて浮かび上がる産業組合の特質を論じた第二部、レモン等の不正肥料対策や全国肥料取次所を扱う第三部に分けて、名望家がノブレス・オブリージェを自覚していた例の多かった戦前日本の農業集落の意義とその営為を礎としてなされた経済発展の背景を探る。■本書の構成はしがき第1部 農民組織―中間団体の日本的特質第1章 問題関心・分析視点第2章 近代日本における徴税制度の特質第3章 近代日本における農会財政の特質補論1 農会と農会報第2部 産業組合―日本帝国圏に展開する産業組合の検討第4章 問題関心・分析視点第5章 沖縄・樺太・南洋群島における産業組合の展開第6章 台湾における産業組合の展開補論2 東アジアにおける産業組合第3部 不正肥料―近代日本の肥料市場におけるレモンの排除第7章 問題関心・分析視点第8章 近代日本における不正肥料への対応策第9章 全国肥料取次所の成立と展開あとがき人名索引 ◎坂根嘉弘(さかね よしひろ)…一九五六年 京都府舞鶴市生まれ 広島修道大学商学部教授 広島大学名誉教授 農学博士(京都大学)
| ISBN978-4-7924-1528-0 C3021 (2024.1) A5判 上製本 354頁 本体9,500円 |
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| 「村」を通してみた比較・開発経済史 |
| 一橋大学非常勤研究員 有本 寛 |
| 本書は、アジア諸地域との比較を通して、「村」のありかたと経済発展とのかかわりを描き出した、比較・開発経済史の研究書である。日本の「村」は、固定的で永続性の高い「家」によって構成され、濃密な社会関係を形成し、高い自治的機能や自律性を持つ、といった特性を持つ。明治から昭和初期において、経済活動の量と範囲を拡大させるうえでボトルネックとなるさまざまな課題、例えば契約の不履行、ただ乗り、粗悪・不正品の流通などを、これらの特性が抑制したとするのが本書の主旨である。 本書の特徴は、「村」を起点に経済発展をボトムアップで捉えている点にある。従来の経済史で主流であったGDP推計や経済・産業政策などの国や地域レベルのマクロな視点とは異なり、ミクロレベルの人や組織間の取引に焦点が当てられる。ここで本書は、農業史・村落史・経済史にとどまらず、開発(ミクロ)経済学、情報と組織の経済学、契約理論といった周辺の学術分野と接続・融合し、学際的に裾野を広げることに成功している。 人や組織のレベルでみた経済発展上の課題は、端的にいえば、信用できない、約束が守られないという「不信」によって取引の量と範囲が制約されることである。では、なぜ不信が発生するのか。ひとつの考え方は「性弱説」、つまり人は弱く、不正して得する誘惑と機会に流されてしまうからである。これに対して経済学には「制度を憎んで人を憎まず」、つまり思わず「不正」に走ってしまえるような契約や制度に原因があるという考え方がある。日本の「村」は、固定的な「家」からなり、面接性が高く、長期的な関係性を前提とした地縁的な組織であるがために、情報の非対称性が低く、不正を発見して罰したりしやすいため、不正を未然に予防し、「不信」を解消するさまざま制度が機能しやすかった。このように解釈できよう。 かつての日本には、こうした機能を持つ「村」が存在し、「不信」が主要課題であったステージにおいて重要な役割を担った。100年前の日本の陽の当たる一面である。では、現在、そして未来はどうだろうか。「村」はまだ存在するのだろうか。現在と未来において、「村」は例えば地域振興といった課題に対して、どのようにかかわるのだろうか。私は著者より一世代若いが、すでに成人前後から日本経済や社会に停滞と衰退の兆しがあった。子どもたちはより多くの課題に直面するだろう。歴史から学び未来への展望を描くにあたって、著者によれば「最後の研究書となる著書」である本書から、重くもヒントに満ちたバトンを引き継いだ。農業史、経済史、経済学といった関連分野の研究者だけでなく、日本の歴史から未来を考える読者に幅広く推薦したい。 |
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